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レポート2022.04.16若手実演家たちが奏でる琉球古典音楽が金色の本堂に響き渡る『琉球古典音楽演奏会 首里の景音』

4月16日(土)、那覇市の首里城近くにある臨済宗妙心寺派慈眼院、通称「首里観音堂」にて、『琉球古典音楽演奏会 首里の景音(かげね)』が開催されました。このイベントは首里の高台から那覇を一望でき、琉球王朝時代より沖縄を見守り続ける首里観音堂に、琉球古典音楽界の次代を担う若手実演家が一堂に会し、2019年に火災により一部が消失してしまった首里城の復興を祈る一夜限りの演奏会です。

琉球王朝時代の宮廷音楽として冊封使歓待や士族の教養の音楽として発展し洗練された琉球古典音楽。もともとは首里士族の男性に限られた音楽でしたが、現在は女性の古典音楽演奏家も多く輩出され、今回は若手の女性演奏家の親川遥さん、前田博美さん、亀井美音さん、林杏佳さんが出演。また琉球舞踊世舞流二代目家元の佐辺良和さん、宮城流師範の宮城茂雄さんといった、国内外で活躍する男性舞踊家の2人も出演されました。

会場の首里観音堂は、貿易が中心だった琉球王国の国王が千手観音菩薩をまつり、航海の安全と国の安全を祈願し参拝していたという由緒あるお寺。今でも家内安全、交通安全、旅行安全祈願として沖縄県民に親しまれるだけでなく、琉球古典音楽の演目の題材にもされるなど縁の深い地でもあります。

第1部は親川さん、前田さん、亀井さんが歌三線、林さんが箏を奏でる斉唱で幕開け。千手観音菩薩がまつられた荘厳な祭壇をバックに沖縄の祝い事には欠かせない「かぎやで風節」など3曲を披露。続いて佐辺さんが登場し、深い愛情で結ばれた男女の揺るぎない愛の絆を表現した舞踊「天川」を演舞しました。

宮城さんは愛する男性を想って極上の着物を織る女心を主題とした舞踊「かせかけ」を踊り、“かせ”と“わく”と呼ばれる小道具を扱い、募る思いと一途な恋心を表現。ほか、親川さんの独唱など、シンプルながらも流麗で気品溢れる琉球古典音楽が続きます。

第2部が始まると、紅型作家・前田直美さんが手掛けた、鳥がさえずるやんばるの春の景色を表した紅型「山景色」に身を包んだ親川さんが再登場。前田さん、亀井さん、林さんも鮮やかで麗美な首里織の着物に着替えて舞台に揃い、「はやりごわいにや節」など3曲を斉唱しました。

手首を柔らかく回す“こねり手”や月を見る仕草の“月見手”など、琉球舞踊の技法が用いられる舞踊「浜千鳥」を披露した宮城さん。哀愁ある旋律に合わて、旅先で故郷や愛する人へ募らせる心情を演じます。佐辺さんはこの日唯一の男踊りだった舞踊「上り口説」を披露。会場の首里観音堂を出発し、那覇の町を抜け薩摩までの道中の情景と心情を、勇ましい所作で表現しました。

締めくくりは三度、若手女性実演家4人による斉唱。「世栄節」と「真福地のはいちやう節」で、会場のある首里の国王を祝い、慕う演目を歌い上げると、静寂の中で三線と箏の音色が響き渡っていた会場が大きな拍手で包まれました。

琉球古典音楽の認知度を上げたいと話し、古典音楽を中心とした音楽会になったと感慨深くコメントした親川さん。「シンプルにそぎ落とされた古典音楽は、(聞く人・見る人によって)受け取り方や曲の色んな解釈が生まれるので、そこを感じてもらえたら嬉しい」と琉球古典音楽の楽しみ方、魅力を伝えてくれました。

親川さんと一緒の舞台に立つこともお寺で踊ることも初めてだという宮城さんは、無事に演舞を終えてホッとした様子。純古典の演奏会で踊れたことに感謝を表し、昔から脈々と受け継がれてきた琉球古典音楽ですが、今も昔も変わらない普遍的な人の思いを共有できるところが素晴らしいと笑みをこぼしていました。

首里観音堂の金色の本堂で繰り広げられた、しとやかで美しい琉球古典音楽と、華やかな衣装とゆったりと流れるような所作の琉球舞踊。幻想的で上質な時間と空間に包まれた、琉球古典音楽の未来を感じさせる貴重な演奏会となりました。

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